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昨日のNAACP大会で、副大統領ジョー・バイデン氏が提起した有権者ID法(Voter ID Laws)は最近論争的な問題のひとつである。この法は、共和党の提案により、選挙会場で有権者が投票する前に何らかの身分証明書(ID)を提示することを要求した法律であり、IDの内容については各州毎に異なる。この法の目的は名目上、投票権がない者の不正投票を防ぐためと言われているが、様々な理由により著しく反発が目立つ法である。

2003年にこの法を最初に施行したのは、アラバマ、コロラド、ノース・ダコタ、サウス・ダコタ、モンタナの5州である。有権者IDの詳細な規定は州により異なり、3つに分類できる。(1)連邦政府司法省が発行した写真付きIDを要求する最も厳密な州は、ジョージア、インディアナ、カンザス、ミシシッピー、ペンシルベニア、テネシー、ウイスコンシンの7州である。(2)写真はオプションであるが、写真がないIDの場合、詳細な個人情報を提供するか、又は有権者IDを所持する第三者に保証人になってもらうことを条件とする州、(3)写真不要のIDで各州が特定した事項に適合していること。他19の州はIDを一切必要としない。有権者のIDを要求する各州は無料で発行するが、基本的にそのIDを取得するためには、誕生証明書のような書類を提出する必要がある。

この法は問題が多く、喧々囂々の論争が起きている。12日の『ABCニュース』は、テキサス州で、他人のIDを利用して投票した6人が有罪判決を受けたことを報じた。このような選挙違反を防ぐため制定された法であると言われているが、テキサス州は、投票登録した605,000から795,000人がこのようなIDを所持していないという。オバマ政権の司法長官、エリック・ホルダー氏は、テキサス州の25%の黒人がそのようなタイプのIDを所持しておらず、8%の白人も有効なIDを保有していないと指摘。ニューヨーク大学のデモクラシー・プログラムの理事、ウェンデイ・ウェイザー氏は、「2~3種の写真付きIDだけを受け付けるテキサス州が最も制限が厳しい」と話している。コロンビア大学の法学者、ネイサニール・パーシリイ氏は、不正投票が発生する可能性は認める一方で、この法による対策は「蠅をバズーカで撃つようなもので、二次的なダメージは大きい」と、法の無意味さを指摘している。

7月9日の『AP通信』の報告によると、厳しい有権者ID規則を定める州が増えていて、「IDがない人は自動的に選挙権を失う」という。もっとも制約された規則を最初に定めたインディアナとジョージア州で、2008年の大統領選挙では1,200名以上の有権者がこのID規則のため投票を放棄したことが判明している。また今年の予備選挙でも投票者のまばらなインディアナ、ジョージア、テネシー州で数百名が投票を阻害されている。投票資格のある人達が投票を放棄する率は、不正投票が発覚するケースをはるかに上回っている。この法の支持者は、選挙の安全性と不正投票防止を強調するが、10州で確認された他人のIDを使った不正投票ケースは、数年間でわずか合計9件であったことが報告されている。また、投票不正のケースは、地方の選挙で投票売買の関与や不正登録が大半で、投票権のない人が不正投票するケースは稀であるため、有権者ID法はほとんど役に立たないと報じている。

『AP通信』は、最近、ペンシルベニア州共和党上院議員がこの州の「新たな有権者ID法によりミット・ロムニー氏の当選が可能になると述べた」と伝えている。人口の多い州で厳しい有権者ID法が制定された場合、11月の大統領選では数千人以上の有権者が投票権を失う可能性があることを警告している。有権者IDの取得が負担になるケースとして、他州から移転した人は誕生証明を現住所に所持していない場合もある。特に、もっとも厳しい条件を限定している州では、有権者IDの取得は困難であり、プレッシャーのため結果的に投票を放棄する可能性が高い。少数派、黒人、学生、老齢者層は特に影響を受けやすく、民主党候補に投票する率が高いため、戦略的なものであると言われている。このような事例は氷山の一角に過ぎず、まだ山積した問題があるため、この法に対する民主党や有権者の反発は大きい。この法を別名、有権者抑圧法と呼ばれる所以はこんなところにある。

歴史は繰り返すと言うが、有権者ID法も例外ではない。黒人は1865年、南北戦争直後の奴隷解放により選挙権を得るが、南部の保守派が投票税(Poll Tax)を制定したり、州の憲法を読めない黒人には投票権を与えなかった歴史がある。投票税は、19世紀に投票できる資格を規定したもので、黒人への人種差別法、ジム・クロウ法の一部である。黒人に限らず、初めて女性の投票権を認める米国憲法第十九条の改正が批准された1919年まで、女性はセカンド・クラスとして扱われていたため、政治活動を阻止されていた。投票権抑圧の隠れた目的は代表権を奪うことである。このような米歴史の影の部分が、その姿形を変えて現在でも繰りかえされている。特に、有権者ID法の厳しい保守州は、歴史的にも投票税法が辛辣に施行されたほぼ同じような州でもあるという事実は単なる偶然ではない。

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