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11日の副大統領バイデン氏と共和党副大統領候補ライアン氏のディベートは、多少、通例と異なる特徴があった。まず、演説台の前に立っ形式的なものではなく、1つのテーブルを囲んで雑談するようなインフォーマルな雰囲気があった。2つ目は、そのような環境であったため、お互いに、途中で相手の会話をさえぎることが頻繫にあり、特にバイデン氏にその傾向が強かった。3つ目は、モデレーターを努めたABCニュースの女性ベテラン海外特派員のマーサ・ラダァツ氏も会話に参加しているようであった。総体的にはライアン氏は最初から幾分緊張した様子であり、質問に直接答えない、また多くを語るだけでほとんど納得できる具体案は示さない傾向が顕著であった。一方、バイデン氏は、外交および国内政策の全ての面で、オバマ氏を擁護する姿勢があった。また、しばしば「質問に答えていない」とライアン氏を叱責し、メディアケアと社会保障に関する論争では、「どちらの言っていることに信憑性があるか常識的に考えなさい」と視聴者に視線を向けて語る場面もあり、笑顔と余裕をみせながらも攻撃的で、ライアン氏の矛盾を突いてノックアウトする瞬間も多々あった。討論は、外交問題から始まり、次ぎに国内経済政策、再度、外交政策に戻り、最後に、宗教と中絶の関連性などの国内政策に戻るというパターンであった。

最初に、ラダァツ氏は、9.11の記念日にベンガジで大使を含む4名のアメリカ人が殺害された事件は、武装集団による計画的な暗殺であったことを語り、「これは、大規模な諜報活動の失敗ではないか」と質問した。バイデン氏は、犯人を探し、正義をもたらすとし、失敗があったとしたらそれを2度と繰りかえさないと述べた。ライアン氏は、オバマ政権が情報を速やかに提供していないと批判。これを受けて、12日、クリントン国務長官は、短い声名でこの事件に関しては、「現在のところ、殆ど何も分かっていないと」述べた。また、「アフガニスタンでクルアーンを燃やした米兵がいたことや、米海兵隊がタリバンの死体に排尿したことなどをオバマ政権が謝罪すべきか」という質問に関しては、オバマ政権は既に謝罪していて、ライアン氏も謝罪に同意した。

更に、イランの核兵器問題に関し、オバマ・ロムニー両氏が軍事行動の手段を使ってでもイランの核兵器を防止すると言っているが、「その軍事攻撃がいかに効果的であるかどうか明確で具体性のある回答」を求めたことで、イラン核兵器の脅威が中東での別な戦争に発展する可能性に関する論議がしばらく続いた。ライアン氏は、軍事行動を駆使してでもイラン核兵器の防止を支持しているようだ。しかし、核兵器を所有しているのは、先進国の米国、イギリス、フランスの他に、ロシア、中国、更にインド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルであり、最初の5カ国以外は核兵器の所有を禁止する条約が1960年代に国連で採択されているが、他の3カ国はこの条約に署名することを頑固拒否している。従って、わずかな量のウラニウムを保持し、核兵器を運送する技術さえないイランに対して、莫大な費用をかけて軍事行動を起こすことが理性的な判断かどうかは疑わしい。

国内の経済問題に質問を進めたラダァツ氏は、国内での最重要課題は雇用であり、43ヶ月ぶりに失業率が8%以下になったと述べた。オバマ政権は、景気刺激策で1兆ドルに近い資金を追加すると失業率は、すぐ6%下落すると予測していると述べ、「6%以下の失業率を得ることができるか、また、どのくらいの時間を要すか?」と質問。バイデン氏は、「どのくらいかかるかは分からない」と答えたが、6%以下に減少できる述べた。2009年1月に就任した当時は、経済恐慌であり、900万人が失業、中流家庭は住宅資産の1.6兆ドルを失ったと語った。また、中流家庭を保護する政策を強調し、ジェネラル・モーターに融資し、数百万の労働者を救済したこと、民間部門520万の雇用を創出したこと、差し押さえで自宅を失った人達の住宅ローン改正を手伝ったことを語り、自動車業界の倒産を容認し、「差し押さえが底を打つまで放っておけ」とロムニーは言ったと述べた。そのような男性が、「47%のアメリカ人は税金を払わず、自分の生活の責任を負わない、」と発言しても驚くことじゃないと述べた。更に、自分の両親や隣人はロムニー知事より効果的な税金を支払い、社会保障で暮らしていると述べた。また、退役軍人や現在アフガニスタンに駐在している兵士は「税金を払っていないのか」と攻撃。更に、共和党は、超金持ちへの減税をしなければ、中流家庭への減税もしないと言って、「中流家庭を人質」にとり、120,000世帯の金持ちには5000億ドルの減税を強制的に続けている、今こそ、責任を取る時だと指摘。また、中流家庭の永久減税を強調し、負債額が住宅の価値より大きいため、自宅を保持することが困難になっている1400万人を助けるため雇用法案を通過することなどを訴えた。

これに対し、ライアン氏は、質問に答えず、我々の経済は後退している。経済成長率は1.3%で昨年より停滞しているとし、9月の雇用の伸び率は8月より鈍く、8月は7月より停滞していると述べたが、実際の数値は示していない。また2300万人が雇用問題で葛藤し、15%のアメリカ人が貧困であり、これは経済回復とは言えないとし、ロムニーと自分が提案している政策通りの経済回復が必要だと述べた。また、ロムニー氏が3日に語った5つのステップに関する同様の話を展開し、全国民の成功を願っていること、貧困から脱出してほしいこと、機会と向上を信じているため、ロムニー政権の成立を推進していると述べた。

バイデン氏は、「どれほど国民のことを思っているかを語ることより政策を見せなさい。責任を示しなさい」と叱責した。ライアン氏が質問に答えなかったため、再度ラダァツ氏は、「失業率を6%に減少させるのはいつか」と再度彼に質問した。しかし、自分達の計画は、中流家庭の安定化のために経済成長4%、今後4年間で1200万の雇用を創出することであると語った。しかし、オバマ氏の景気刺激政策が「縁故主義」のための政策であると矛先を変えた。そこで、ラダァツ氏はすかさず、「自分もその景気刺激政策の融資を依頼したんでしょう?」と聞く場面があった。本人より先に「彼はそうだ」とバイデン氏が答えたため、ライアン氏は、「我々は助成金の申請を提唱した」と答えた。

縁故主義の疑惑に関し、バイデン氏は、調査の結果、プログラムの不正にあたる部分は0.4%で、ほとんど縁故主義の事実はなかったと反論し、ここに座っている私を見ている「彼の言葉で書かれた手紙」には、その助成金を必要とする理由は「景気刺激政策の融資は雇用を創出する」と書いてあったと述べた。ここでの縁故主義とは、その助成金が民主党支持者を優遇する政策というような意味であるが、実際はライアン氏の提唱により、ウイスコン州もその助成金を受けていた事実があった。バイデン氏の皮肉はライアン氏の矛盾に一撃を食わせる瞬間であった。

ラダァツ氏はメディケアと社会保障について「生き残るためにはシステムを変える必要があるプログラムでアメリカ人にメリットがあるのか」というライアン氏への質問に、「メディケアや社会保障は破産している。これらは議論の余地のない事実である」と答え、自身と母親は社会保障の受益者であり、大学に通うことができ、小さな事業を始めることができたと語った。しかし、このようなプログラムは、現在54歳以下の人には改革する必要があるが、55歳以上の退職年齢の人には変更しないことがロムニーと自分が提案している政策であると述べた。メディアケアに関しては、ロムニー氏と同じ議論を展開したが、具体的説明はなかった。

ロムニー・ライアン両氏は「オバマ政権はメディケアから7160億ドルを削減し、オバマケアに補充している」と繰り返し伝えているため、バイデン氏は、メディケアのコストを削減し、保険会社への過剰支払を停止し、7160億ドルを保存したと説明した。また、ロムニー・ライアン路線のメディケアのクーポン・システムは更にコストがかかると述べ、民主党のメディケア計画は、米国医療協会や米国退職者協会など主要機関に支持されていることを強調。更に自分達はメディケアと社会保障を絶対に民営化しないと力説。740万人の老齢者に対して、3200ドルのメディケア給付が削減されているとするライアン氏の7160億ドルに関する異論に対して、「そのような事実はない」とバイデン氏は否定し、老齢視聴者に「メディケアを失った老齢者がいるか」と呼びかける場面もあり、メディケア論争は両党に、多大な違いがあることを視聴者が理解できる一方で、混乱の原因でもあった。

また、ラダァツ氏は、前大統領G.W ブッシュが社会保障の民営化を考慮していたとき、ライアン氏は奨励した議員の一人であったと指摘した。彼は、この点についてもロムニー氏が3日に語った同じ構想を述べたが、若い世代の選択肢にどのようなメリットあるのか、その説明はしなかったが、55歳以上は変更があることや、支給年齢が段階的に上がり、2103年以降、70歳以上が支給対象になる可能性があると述べた。

これに対し、バイデン氏は、現在ライアンのように40代の人は毎年2600ドルを支払うが、社会保障の受給額より減少すると語った。これは、他の措置を考慮せず国民の受益を削減することになり、「完全に間違ったやり方」だと批判した。誰がこのようなメディケアや社会保障の法案を信じるかと述べ、視聴者に「常識的に考える」よう警告した。ライアン氏は、それは誤情報だと反論したが、具体的にその理由を提示しなかった。

次ぎに、課税に関して「貴方が当選した場合、誰が更に多く、誰が少ない税金を支払うのか」との質問に、バイデン氏は、中流家庭が少ない税金を支払い、年間で100万ドル以上所得のある家庭は、それより若干多く支払ことになると語った。8億ドル以上の所得者も減税していたブッシュの減税法案は期限ぎれになるため、中流家庭の永久減税の維持を強調し、平均8億ドルの所得者〔主に大企業〕に対する減税を継続しない方針を語った。現在、期限切れの問題に関し、共和党はこの富豪層に対する減税が出来ない場合、中流家庭も減税しない構えを見せ、「中流家庭が人質になっている」現状を再度説明。オバマ・バイデン両氏の政策は、250,000ドル以上の所得者に減税しないことであると語った。

減税に関するライアン氏の反論は、ロムニー氏と同様で、小さなビジネス業者を含めて「雇用を創出するビジネスに増税できない」こと、世界の工業国の企業の課税平均率は25%であるとし、それに比較すると米国は今でさえ税率が高いのに、オバマ氏は更に、増税をするつもりだと批判。赤字を増やさない、中流家庭に増税しない、所得を下げないことが3つの基本方針だと述べた。また、キャピタルゲインの「抜け穴を塞ぐ」と言っているが、どのような計算であれば予算のバランスを図れるのか、具体的な数値を示さないため説得力に欠けた点もロムニー氏と同じであった。ラダァツ氏は、一律20%減税を提唱している「ライアン氏は具体的な計算方法の提示を拒否している」と指摘し、執拗に「計算方法があるか」と聞いたが本人は明確な回答を避けた。

バイデン氏は、ライアン・ロムニー税制で富豪層の減税で失う5兆ドルを埋め合わせるための抜け穴は、中級家庭の住宅ローン、医療保険、教育費を削減する以外に方法がないことを税金専門機関である税政策センターや保守派のアメリカン・エンタープライズ研究所さえ数値で実証していることを語った。また、富豪層12万人の減税のため、どうして中流家庭の子供の教育費を削減しなくてはならないのかと指摘。

また、ラダァツ氏は数回、ライアン氏が軍事費を削減しない方針であることを確認した。ライアン氏が「軍事費は削減しない」と答えたとき、バイデン氏は、彼等は10年間で予算を「2兆ドル増大する」と言い、ライアン氏の話を中断したが、ライアン氏はその数字を否定した。しかし、数値を具体的に述べなかったため、再度ラダァツ氏に数字の具体性を指摘された。ライアン氏は、民主党が防衛費削減に4780億ドルを提案しているとし、負債減少の交渉で、現在別に5000億ドルの削減が計画されていると述べた。また、「強国に基く平和を信じる」とし、国土安全保障にたいする予算の削減に反対する姿勢を示した。バイデン氏は、両党の合意に達しない場合、軍事費の削減は負債に対応するための一部の予算編成として自動的に削減することが交渉結果である事や、軍隊を縮小し、無人飛行爆撃機の増大を希望しているのは軍部であると説明した。

この後、アフガニスタンの撤退に関する議論に移行した。ラダァツ氏は、この戦争で2000人の米兵を失い、今年だけで50名の米兵がアフガン勢力に殺害されている。アルカイダは衰退しているのに、「これ以上何を達成することがあるのか、なぜすぐ撤退しないのか」と質問。ライアン氏はタリバンが再度勢力を取り戻し、アルカイダに安全な巣を与えないことを明確にしたいと述べ、基本的にはオバマ政権が公表した2014年の撤退に同意を示した。しかし、移行が成功することを望んでいるとしながらも、軍指揮官の様子を見たいと述べ、2014年の完全撤廃は表明しなかった。

一方、バイデン氏は、米軍アフガニスタン駐留の目的は、アルカイダを衰退させ、オサマ・ビンラディンを消すことが本来の目的であったとし、アフガン軍隊の訓練も援助したが、49カ国の同盟国は段階的な撤退に同意していると説明。従って、2014年以後のアフガニスタンの安全保障は自分達の責任であると述べた。また、このようなプロセスが今後10年間で8000億ドル保存できるとし、目的は既に達成したことを力説した。その後、2014年までの期限付き完全徹底に難色を示したライアン氏に「奇妙」な発言をするとバイデン氏は指摘し、同盟国49との協定の重要性を強調。ラダァツ氏はライアン氏に「正当性の理由」を求める場面もあった。

また、ラダァツ氏は、シリアの内戦に関し、25000から30000人が殺害されている現状で、リビアでの殺戮を食い止めるための軍事行動に触れたオバマ氏の発言を提起し、「シリアではどうして同じ論理が成り立たないのか」と質問。バイデン氏は、シリアは地理的および人口動態的にはるかに広大であることや、米軍の派遣を誰も提案していないことなどを説明。ライアン氏も提案がないことに同意したが、ロシアはUNの永久メンバーでありながら、バッシャール・アサドに武器を輸送しているため、UNとの交渉に国連事務総長の同意やロシアの承諾を待っている間に、アサドは数千人の自国民を殺害していると指摘した。更に、早期の段階でシリア政府への反乱軍や自由の戦死と共に「働くべきだった」と述べた。しかし、「働く」とは何を意味しているのか、表現が曖昧であり、特に、外交政策に疎い一般的な視聴者には理解しにくい側面があったのではないかと思われる。

最後にラダァツ氏は、両氏ともカトリックの信者であることを前置きし、「彼等の宗教が中絶問題に関して個人的見解にどのような役目を果たしているのか」と質問した。ライアン氏は、公私に関係なく、信仰はその個人と一体であり、宗教は要因でもあるが、基本的に生命尊厳の立場であるとし、「人生は受胎から始まると思う」と述べた。更にロムニー政権は、レイプ、近親相姦、母体の生命に危険がある場合の例外を除いて中絶に反対すると語った。また、オバマ政権は「オバマケア」を介して、宗教的自由を妨害していると批判。

一方、バイデン氏は、「宗教は自分が何者であるかを定義」し、生涯宗教を実践してきたと語った。特に、カトリックは他人を思いやり、助けを必要とする人に手を差し伸べる「社会的教義」を教えてきたと語った。また、「人生は受胎から始まる」とする教会の教義を受け入れるが、個人的な人生の選択も受け入れると述べた。また、ここに居る議員とは違い、「宗教の教義を万人の人生に強制することを拒否する」と静かに厳格に語った。更に中絶は、他人がコントロールする性質のものではなく、女性と彼等の医者との間で決定するべきだというのが自分の考えであると語った。また、この「受胎」に言及しているカトリック教会、宗教機関、及び病院は存在しないことが事実だと断言し、「根本的に同意できない」立場を明らかにした。

ラダァツ氏はまた、ロムニー・ライアン両氏が当選した場合、「中絶の合法性を支持する人は心配する可能性があるか」という質問に対し、ライアン氏は、選出されていない裁判官がこの決断を下すべきだとは思っていないとし、選出された代表者を介して、また民主的なプロセスを通して、社会のコンセンサスを得て決定を行うべきだと述べた。一方バイデン氏は、ロムニー氏の法律主席顧問のロバート・ボークが最高裁の判事に任命される可能性があり、其の場合は、ロー対ウェイド裁判が覆され、中絶が非合法になる可能性があると懸念し、オバマ政権下では断じてそのようなことはないと述べた。

結論として、外交問題に関しては、ライアン氏はオバマ氏が世界に米国の弱さを投影しているとホワイトハウスを非難したことが顕著であった。また、外交政策の知識と経験の面で、バイデン氏に比較すると、多大なハンディがあることは明らかであった。雄弁であるが、質問に答えなかったことが甚だしく、事前の準備で記憶した事を語っている印象があった。

バイデン氏は、父親が息子を叱責するような場面もあったが、ライアン氏より高い頻度で相手の話を中断させたことはマイナス・イメージである。しかし、オバマ政権の景気刺激策の論争でライアン氏に一撃を食わせた瞬間があったことは、リバラル派のメディアに賞賛されている。また、喧騒的な「47%は税金を支払っていない」とするロムニー氏の問題発言を提起したことは、ライアン氏に、更に一撃食わしたことになる。また、大事な両党の税制の違いについて、ロムニー・ライアン税制の一律20%減税と2%の富豪層への減税延長は、低所得者と中流家庭に対して増税の結果になる抜け穴があることを提示したことも、論争として評価すべきである。12日の『ロイター』によると、同紙の世論調査で、「常にリードしたバイデン氏」を54%好ましいとし、ライアン氏の50%を上回った。バイデン氏は、ある意味でライアン氏をノックアウトできたと思う。

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