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40カ国以上に事務所を構える国際組織の人権ウォッチ(HRW)は米国のタバコ産業の農業で児童労働者が搾取されている現状を2013年に取材調査し、137ページの報告書を今月公表した。その取材地は、米国の主なタバコ生産地であるノース.キャロライナ、ケンタッキー、テネシー、およびバージニア州である。タバコ栽培現場での労働の危険性、健康上の有害性、児童労働の理由、賃金と労働時間、児童労働基準に関する本格的な報告書の概要をまとめてみた。

インタビューに応じた子供達のほとんどはタバコ栽培に隣接する地域または州内に在住し、圧倒的にヒスパニック系が多く、大多数の子供達は米国市民である。2013年にノース.キャロライナで児童労働者であった78%は米国市民であるが、インタビューに応じた子供達の親はほとんど不法移民であった。(その理由は両親の移民状態に関係なく米国で生まれた子供は自動的に米国市民の資格を得るからである)子供達は主に学校の夏休みを利用して働いているが、正確な児童労働者数は判明していない。その作業は、植えることから収穫および運搬や梱包に至まで、手作業を含め、危険な器具や機械装置を使用し、保護設備のない環境下で常に健康上の危険に直面している厳しい肉体労働である。

HRWは2012年から2013年に、これら4つの州のタバコ栽培畑で児童労働を経験した7歳から17歳までの 141人の子供達にインタビューした。現場取材期間は2013年5月から10月までであり、ノース.キャロライナで80人、ケンタッキーで46人、テネシーで12人、およびバージニアで3人の子供達に直接インタビューした。141人中、4人はかなり幼い子供達であり、インタビューに応じた子供達の中間年齢は15歳であったが、タバコ栽培畑で働き始めた時の中間年齢は13歳である。また、HRWは、農業組織の代表者、弁護士、社会および健康サービス業、学者など36人の専門家を含め、合計187人にインタビューした。

タバコ栽培畑での労働は想像以上に危険であり健康に有害である。タバコの栽培と収穫作業に伴うニコチン、農薬、殺虫剤、タバコ埃の露出および、危険な器具や機械の使用は避けられない状況である。インタビューに応じた子供達の多くはマイナーな負傷から、体の一部を機械に挟まれるなどの大きな事故に至るまで、常に危険に直面している。米国に移民した17歳のイサック.S.は、地面にタバコを植える前に苗を刈り取るため使用した芝刈り機の作業中、機械に手を挟まれる重大な傷害を負った。事故直後に手術を受けたが、当時まだ痛みがある状態であった。州法は季節労働者に賠償金の支払いを要求していない為、負傷による失業で収入を失い、治療費の負担による二重損失を受けた。イサックの話によると、雇用主はこのような損失に$100を支払っただけである。

危険に加えて、子供達は常に健康上のリスクに晒されている。タバコ産業の栽培現場で働いている子供達に様々な症状が報告されている。それは、Green Tobacco Sickness ( GTS)と呼ばれるニコチン毒性疾患であり、タバコ特有の職業上の健康リスクが報告されている。公共衛生の研究では、急性ニコチン毒性症状に最も共通した目眩、頭痛、吐き気、嘔吐などの症状が報告されている。皮膚を介してニコチンを吸収する長期的な影響は不明であるが、未成年の喫煙の研究では、長期的ニコチン露出は脳の発達に有害な結果をもたらすことが懸念されている。更に、子供達は彼らが働いている畑、又は隣接する畑で殺虫剤をスプレーしているトラクターを見かけるとHRWの調査官に語ったという。彼らは殺虫剤の強い悪臭に加えて、目や鼻に燃えるような感覚があり、皮膚がかゆく、吐き気、嘔吐、目眩、息切れ、口内炎症や腫れ、および頭痛を訴えた。また、子供達は夏の灼熱の下で労働しているにも関わらず、雇用主は、飲料水さえ提供しなかったと報告している。更に、トイレのアクセス、手を洗う施設、日陰の場所は限定されているか、又はほとんど利用できない状況である。ケンタッキーのあるタバコ栽培畑で、両親や妹と働いた16歳のカーラ.P.は、タバコの植物を引き抜いている時、気分が悪くなり10分間嘔吐し続けたとインタビューで語った。ノース.キャロライナで働きながら、機械工学の勉強をする計画があると語った16歳のエミリオ.R.は頭痛を訴えたという。

子供達がタバコ収穫畑で労働する理由はほとんど緊迫した経済的事情があるためである。彼らは季節労働者または移民であり、圧倒的に貧困者である。ノース.キャロライナで働いていた15歳のグレイス.S.は「お金の面でお母さんを助けたかった」とタバコ畑で働くことを決めた理由について語ったという。全国農業労働者調査によると、2008年から2009年の農業労働者の中間年収は$18,750である。農務省の調査によると、農業労働者の貧困率は米国のどの給与所得者より2倍高い。HRWのインタビューに応じた農業労働者の家庭の子供は、貧しい親を頼らず、衣類、靴、学校教材などの必需品を自分で購入するためタバコ産業の農業に従事している。他の理由は、若すぎる彼らにとって、学校の夏休みを利用して働ける仕事の機会は他にないからである。

彼らは労働時間と賃金の面でも搾取されやすい。HRWのインタビューに応じた子供達の労働時間は1日10時間から12時間である。時には16時間労働する場合もある。ほとんどの雇用主は、1日数回の休憩を与えるが、何人かの子供達は、休憩はなかったと報告した。昼食時の休憩は30分間または30分以下である場合もあったと報告した子供達もいる。収入を最大限に増やすため、週に6日または7日の労働を選択する子供達もいたという。タバコ産業の畑仕事で働く過半数の子供達は、連邦政府規定の時給$7.25の条件であったという。しかし、ある一定の時期には収穫量による出来高制で支払われる場合もある。また、労働時間の不正確な記録、又は理由不明の原因により、最低賃金より安く支払われる場合もあったという。HRWは、子供達は平均的に週50時間から55時間労働し、1週間に平均$350から$450の支払いを受け、平均時給は$6.50 であると説明している。

HRWによると、国際労働機関(ILO)は「児童労働の最悪の形態の禁止及び撤廃のための即時行動に関する条約」として知られるILO条約第182を1999年に採択した。児童労働に関する国際基準は、子供の労働を禁止していないが、18歳以下の場合、搾取及び有害な環境から保護するための基準を定義している。HRWは、現場取材による調査から、米国のタバコ産業はこの基準に違反していると考慮している。また、連邦政府の公正労働基準法(FLSA)に基づき、労働時間および賃金、安全性の側面からタバコ栽培畑で働く子供を保護することを緊急要請している。精神的および肉体的な乱用がある、危険な機械や装置を作動させている、重い荷物を運ばせている、危険な化学薬品に接触させている、長時間灼熱下に晒している、不健康な環境下で労働を強いている、労働時間が長過ぎるなどの理由でタバコ産業は違反を犯していると判断している。

ジュネーブに本部を置くタバコ栽培(ECLT)財団は、タバコ栽培労働の子供達を守る為、ILO条約138と182に従って、次の活動は18歳未満の子供達を保護するため、禁止することを奨励している。それらは(1)肥料の使用、(2)農薬の取り扱いやと散布、(3)子供には危険で重すぎる器具の使用、(4)子供が安全に指令できない機器の使用、(5)植物を裁断するナイフの使用や、その他肉体的に危険が伴う重労働である。HRWは、米国の児童労働の法律に関する問題は連邦政府に主要な責任があるが、民間企業も全ての人権を尊重し保護する観点から、児童労働に関しても子供の人権を保護する責任があると強調している。しかし、HRWは、連邦および州の労働法には労働時間および危険な労働環境を含む児童労働に関して、特に、農業分野での児童労働者を保護する対策が欠乏し、法的な抜け穴があると指摘している。

1938年に制定された連邦政府のFLSAは最低賃金、残業手当、記録管理、および児童雇用に関する基準を規定している。しかし、FLSAは、他の産業の労働者に提供されている法律の多くの規定は農業雇用者に除外されているため、農場労働者の成人と子供は十分な肉体的及び精神的保護を受けていないのが現状である。例えば、すべての農場労働者にたいする残業手当の規定は免除され、小さな農場の農業労働者は最低賃金の必要条件が除外されている。更に、従業員の団体交渉に従事する権利を保証し、自由な労働組合との関与に雇用主が干渉することを禁止する連邦法は農場労働者を除外している。また、職業安全および健康法とその基準も農業分野での労働者を除外している。特に10人以下の労働者、及び最後の12ヶ月間に季節労働者の活動がなかった雇用主に対する規制はほとんど免除されている。

米国労働省(DOL)の賃金と時間の規定は FLSA及び移民や季節農業労働者保護法(MSAWPA)で施行されている。賃金と時間の規定の調査官は全国に駐留し、児童労働やFLSAの他の条項の遵守を決定するため調査を認可している。農業での児童労働者は連邦政府の法律では十分保護されていないが、大抵の雇用主は合法的に児童労働者を雇用することが可能である。HRWは、2010年に894人の調査官を雇用し、多国籍言語を駆使する調査官も加えて、2013年末には1,040人に増員した。2013年に、DOLは、FLSAに基づく201例の農業雇用者の調査を実施し、MSAWPA下で1,227例を調査し、合計94,059 時間を費やした。その結果2013年、DOLは 62人の子供たちが関与した農業労働の36例、同年の全児童労働事例の5パーセントは児童労働違反であることが判明した。

世界のタバコ産業事情を研究しているHRWによると、日本は70カ国で運営し、世界のタバコ市場の推定15%を占める世界をリードするタバコ生産国である。一方、米国は中国、ブラジル、インドに次いで4番目に大きなタバコ生産国である。米国で2012年に生産されたタバコ葉の合計価値は約15億ドルである。ノース.キャロライナ、ケンタッキー、テネシー、バージニアを含めて少なくとも10州がタバコを生産している。米国のタバコ生産の50%はノース.キャロライナであり、25%はケンタッキー、7%はテネシーとバージニア州である。HRWはこの調査結果を基本に、タバコ産業および米国議会と大統領に対して、児童農業労働者の搾取を緩和するため具体的な規制を提示し、それを検討するよう要請している。特に、米国の農業で18歳以下の児童労働者が危険な仕事に従事することを禁止する事や、未成年労働者の最低賃金の確立を含む包括的な規制を奨励している。

 

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