アメリカの最新課題 Contemporary American Issues © 2016 Yuko’s Blog. All Rights Reserved.  

人類史上、宗教ほど紛争、殺戮、戦争、及び社会問題の根源になっているものはない。中世時代の11世紀後半から12世紀の十字軍もキリスト教とイスラム教の戦争であり、17世紀前半に起きた30年戦争も、ローマ帝国で起きたカトリックとプロテスタント間の紛争であった。1850年から15年続いた中国での太平天国の乱、1857年のインドの反乱、1630年代に日本で起きた島原の乱など大きな内戦も宗教に大きく関わりがある。また、2001年9月11日の同時多発テロも宗教が原因のひとつとして見ている学者も多い。以後、善と悪との戦いの日の到来を意味するハルマゲドン的発想の書物が多く出回るようになった。

アメリカが深い宗教国である事を示す要素は多々ある。アメリカの各地を旅行すると、どのホテルやモテルの各部屋には必ず一冊聖書が置いてあるということに気付く。19世紀後半に全国を駆け回るアメリカのキリスト教信者のビジネスマン等が滞在先のホテルのカウンターに新約聖書を置くようになったことがきっかけとなった。現在では170カ国にギデオン国際教会があり、年間4千万冊以上の聖書をホテル、警察、軍部施設、病院などに配布している。キリスト教信者は少ない日本でも1950年にその支部が東京に誕生した事実を考慮すると、キリスト教はグローバル的宗教であると言える。

最近、世界のメディアはイラクやアフガニスタンに駐在する兵士が使用しているライフルの照準先端部に新約聖書のヨハネ福音書第8章12節、「私は世の光である。私に従って来る者は、闇を歩くことはなく、命の光をもつであろう」を意味する記号が付されていたことを報じている。これは、単に銃を供給した製造会社の意図によるもので、アメリカの憲法に反することはもちろん、現代版十字軍派遣の印象を世間に与えるとして論議をかもし出した為、適切な緊急処置が要求された。製造会社は問題の対処にあたり、その符号を抹消できる器具を現場に送ると公約したことが知られている。このような例は、憲法改正第一条で個人の信仰の自由は保障されているが、政府は政教分離の立場を維持している為、ある特定の信仰のみを支持することは憲法で禁止している点が問題の焦点にある。

このような事実はアメリカ国民が単に信仰深いことを意味しているだけではなく、多様な民族性を織り成すアメリカがどの国よりも宗教に影響されている国であることを示唆している。アメリカは独立戦争後、如何なる宗教の実践も阻止及び差別されることは無いことを詠ったこの憲法改正第一条が、宗教の拡大を促進する結果になったと考えられる。

大事な点は、アメリカの憲法は何よりも人間による人間のための政治を基盤にした上で信仰の自由を保障しており、建国の精神は神を根底にしているのではない。しかし、1620年頃からイギリス帝国の植民地となった13の州に移民していたヨーロッパ人が、アメリカ独立戦争より100年以上も前に様々な宗教を確立していたことが知られている。その最初の移民は当時のイギリスの宗教革命運動の頃、イギリスの国教、アングリカン.コミュニオンに反対して、国を追放されたピューリタン教徒が現在のマサチューセッツ州に移住した。次にクエーカー教徒がペンシルベニアに、更に、ローマ.カトリック教徒がメーリーランドに移住し宗教を自由に実践していた。1740年には、63%のイギリス系北米人がニュー.イングランドかチェサピークに住み、会衆派教会信者又は、アングリカンなど2~3の限られた宗教組織を築いた。現在のマサチューセッツ、バーモント、コネチカット、ロード.アインランドなどを含むニュー.イングランド地域が最初のヨーロッパからの移住地であり、この地域が最も歴史的にリベラルな地域として知られている。リベラルな民主党の大統領は、このような地域から支持を得る可能性が高いことも歴史的な傾向のようである。

このような背景から、多くの歴代の大統領はなんらかの宗教に関わりがあり、時代とともに変遷はあるものの国民の宗教に対する執着性も一般的に高いといえる。これらの要点を裏付ける為、ここでは各国の信仰度、アメリカの宗教の類別、アメリカ人の宗教観、歴代の大統領が属する宗教と投票の関連性、及び宗教界がアメリカの政治にどのように影響を与えているかなどを考察してみたい。

まず、アメリカが宗教を重視する国であるかどうかを知るためには、他の国と比較してみる必要がある。ミシガン大学が2002年から2003年に、ヨーロッパ諸国10カ国を対象に、国民の進化論を受け入れるかどうか直接インタービューで調査したところ、進化論は絶対的に真実と答えた国はデンマークが約53%で最も高く、次にフランスが約49%、ドイツ約35%、オーストリアが約33%、イギリス及びスペインが約32%、オランダが27%、イタリア及びポーランドが約26%、最後にアメリカが最も低い約14%を示している。更に、2005年に調査を拡大し、日本を含めて34カ国のヨーロッパ諸国を対象に進化論が正しいと思うと信じるかどうか調査したところ、信じると答えた国はアイルランド、デンマーク、スェーデン、フランスの順に高く、日本は5番目に信じる国民が多いことが判明した。逆に進化論を支持しない国はトルコが最も低く、次にアメリカの成人が進化論を信じていないことが判明した。

このミシンガン大学の調査は、ヨーロッパ諸国や日本に比較すると、アメリカは遥かに高い1/3の国民が進化論を信じていないことを明らかにした。また、イスラム教国のトルコでは当然、進化論は受け入れられていないことが判明した。この調査はネットワークを通し、ヨーロッパ諸国32カ国及び日本のいずれも個人的にインタービューを行って調査した結果であり、データーに確実性があることが強調されている。

ピュー.リサーチ.センター が提供した資料によると、米国国勢調査局の宗教に関する統計調査には2001年から2006年まで4回、政府以外の機関が調査した結果が示されている。2001年と2006年の調査結果を比較した場合、どのような変化があるか注目してみたい。調査対象となった信徒は、クリスチャン、プロテスタント、カソリック、他のキリスト教、ユダヤ教、イスラム教のみに限定している。この調査によると、2001年の政府の統計では2億1千万人の成人または76.7%がキリスト信者であった。2006年にシンクタンクの調査センターが行った統計ではキリスト教信者の数は81.3%に増え、プロテスタントも49.8%から53.9%に増えている。

宗教加入率調査 2001年 2004年 2006年
クリスチャン 76.7% 81.3%
プロテスタント 49.8% 50.4% 53.9%
カソリック 24.5% 25.1% 25.2%
他のキリスト教派 2.4% 2.2%
ユダヤ教 1.4% 2.2% 1.9%
イスラム教 0.5% 0.7% 0.5%
無所属 14.2% 14.2% 11.8%
他の宗教 7.2% 7.4% 4.5%

ある日、クラスで講師が簡単な調査を行ったことがあった。何人の生徒が神を信じているか、あるいは信じていると思う人は挙手するよう指示したところ、その当時、クラスには50名以上の生徒が出席していたが、何と数名を除いてほぼ全員が挙手したため、驚いたことを今でも鮮明に覚えている。ある宗教のクラスでは同じ質問に対して、個々の生徒の思いをクラス内でエッセイに書かせる講師もいた。

このような現状は、一世紀前と何ら変化が無いことを示唆している。アメリカ社会は1920年代、モンキー裁判として有名なスコープ対テネシー州の裁判で、高校のクラスでダービンの進化論を教えることを禁じた歴史がある。1990年代前まではこの進化論と聖書に基づく創造論またはクリエイショニズム〔宇宙は神の超自然的力により造られたとする説〕が宗教のリーダーと科学者の間で激しく対立していた。現在では宗教側が、創造論の立場を微妙に支持しながら、神や聖書という表現を用いず、様々で複雑な生態系の論理を科学と創造論を結合させた概念としてインテリジェント.デザインという言葉を使用するようになった。クリエイショニズムを支持する人たちで組織された研究学会は神を「ずば抜けて賢い設計者」という巧みな表現に置き換え、もっともらしく科学的に論じているだけにすぎない。 (続)

 

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