米国最高裁は、3月26日から28日まで、2010年に制定されたオバマ政権の医療改正法に関する聴聞を行い、今月末までにその聴聞の判定結果を発表します。この医療保険改正法は 2014年から施行される予定ですが、2010年共和党議員らにかなりの修正を加えられて署名に至った後も法の合法性をめぐり論争が続き、ほぼ足踏み状態になっています。国民に医療保険の加入を義務づけ「加入しない国民には罰金を科す」とする「強制加入(Individual mandate)」は合法的であるかどうかが論争の主要点です。
この医療保険法は、患者保護及び経費の側面でも、医療の質と効率性を掲げていますが、反対する人達は、購入したくない物を無理に押し付けられることは、根本的 に「自由の侵害である」と抵抗しています。また、政府の権限が拡大する可能性を懸念する議員や一般の国民もこの医療改正法に反対しています。ミッド・ロムニー氏は、マサチュセッツ州の知事時代に類似した医療保険法を制定していましたが、この法を「オバマ・ケア」と呼び、全面撤廃 を掲げています。一方、支持派は 逆に「自由が拡大する」と主張し、何らかの病気を既に患っている人は医療保険に加入しにくい従来の医療保険制度に反して、更に3000万人以上の保険加入が可能になること、高騰し続ける医療費を抑えることが可能であると主張しています。このように、前者と後者の 「自由」の解釈が異なっていますが、立場を明確にせず沈黙を守っているのは唯一医療保険会社です。医療保険加入者が増大すれば、利益が見込めることは明らかですが、支持を明らかにすると宗教団体からの圧力が懸念されるからです。
26日に始まった米国最高裁での聴聞は、この罰金を徴収する方法が課税と同じだとする観点から税金ではないかとする意見が提起され、罰金が税金の類になるのかどうかという論争が焦点になりました。加入しない国民に対して、実際にその罰金を科すケースが発生する以前に、最高裁で聴聞することは、反差止命令法(Anti-Injunction Act )の法律に照らし、「時期が早すぎた」からです。27日の二日目は、議会が国民に医療保険加入を強制し、2014年までに加入しない国民に対し、2015年の課税時期から罰金を科すことが合法的であるか否かの論議に集中しました。医療保険を国民に強制する権利が議会にあると主張するなら、保険に限らず、健康上推薦可能な他の製品、例えば、ブロッコリーの購入も強制することが可能なのかどうかという質問も提起されました。これに対し、政府側の弁護団は、医療保険を義務づけることは、医療保険に加入することで、国民が積極的に国の経済に関与することを意味し「国の経済問題に関与する通商条項 (Commerce Clause)に照らし、合法的である」と反論しました。合法性の是非に関する論議に集中した2日目は、判事間の見解を二分しました。
最終日28日の最高裁の聴聞では、オバマ政権の医療改正法で加入者の増大が見込まれているメディケイド・プログラムを各州へ参加要請する条項が不当に強制されたものであるかどうかの論争が展開されました。メディケイドは1965年の社会保障制度の改正により制定されたもので、連邦政府と州の連帯資金プログラムとして、貧困ラインの低所得者で子供も含めて医療保険に加入できない国民を対象にした公的医療保険制度です。各州は独自の名称によるプログラムを準備し、その責任を担っています。また、1990年代から2010年まで数々の法制定により、メディケイドの規模は拡大し続けています。 『Medicaid.gov』によると、現行のメディケイド制度は政府が財政の豊かな州にはその費用の50%、乏しい州には75%、平均57%を負担する 補助金を各州に提供しています。子供用の医療保険プログラムを含めて現在約6000万人の低所得者がこの恩恵を受けています。
オバマ政権の医療改革法が2014年から施行された場合、それに伴い、変化する部分は、65歳以上を対象にしたメディケアの条件に適用せず、またどのような医療保険にも加入する余裕のない、数千万人の貧困ラインの低所得者に更なる援助を拡大することです。このような追加分に対して、施行当初から2020年まで連邦政府がその費用のほぼ100%を支払い、長期的には90%くらいまで減少させることが新たな展開になるようです。ほぼすべてが共和党知事の監督下にある26州では、長期的に連邦政府側の補助金が減少すれば、その分だけ州の負担が増えることや、プログラムが拡大し過ぎて、連邦政府からの資金に依存している状況で、州が連邦政府のガイドラインに従わない場合、補助金は停止されることなどを理由に「強制的」であるとし、オバマ政権の医療改正法の完全撤廃を求めています。
また28日は、医療改正法の「強制加入」の合法性の是非に関する論争が再度重要課題となり、今後の選択の可能性が提示された点で生産性があったと思います。オバマ政権の「強制加入は通商条項に照らし合法的である」とする主張が否定され、憲法違反の決定に至った場合、上記のメディケイド拡大案も含め、医療改正法それ自体が無効になる可能性がある一方、分離条項(Severability Clause)に基づき、問題のある箇所を削って使える部分は残す方法があることも示唆されています。この法の生き残りを希望するオマバ政権側は「強制加入」が憲法違反である場合、罰金などの強制部分を修正し、他2~3の条項を削除するのみに留めるとことを主張しているようです。
結論として、米国の医療改革法は11月の大統領選で最も重大な国内政策のひとつであるため、3月の最高裁の聴聞と今月末の最終決定は歴史上画期的なイベントであると思います。3日間の最高裁聴聞での論争の核心部は、医療保険に加入しない個人に罰金を科すなどの「強制加入」が通商条項に照らし憲法違反 であるか否かです。聴聞最終日に提示された3つの選択詞である、「全面撤退」、「強制加入部分の削除」、及び「強制加入部分と他一部条項の排除」のゆくえが6月末以降明白になるはずです。また、オバマ政権の代表側は、既に病気を患っている人に対して加入を拒否する保険会社の「差別」を禁止するよう最高裁に要請しました。オバマ政権の医療改革法が生き残るかどうか、今重大な転換期を迎えています。